はじめに

全身健康に果たす咀嚼(チューイング)


脳を守る 心を守る 体を守る

物事を徐々に忘れる、覚えられなくなる「認知症」、最近取り沙汰されている隠れ肥満「メタボリックシンドローム症候群」、そして日常生活に支障をきたすこともある「ストレス」一見、それぞれ全く関連性の無さそうなこと同士ですが、最近の研究でこれらの問題を「ある方法」で解決、もしくは緩和することができることが分かってきました。
「ある方法」というのが気になりませんか?皆さんが毎日食事するとき何気なく、そして必ず行っている行動です。そう。「咀嚼(そしゃく)」です。
咀嚼というと分かりづらいですが、要するに「咬むこと」です。よく咬むことによってこれらの問題が解決できるのであればこれほど簡単に実践できるものはありません。
こちらでは神奈川歯科大学歯学部名誉教授、小野塚実 先生から提供していただいた資料を元に最新の情報を掲載させていただいております。咬むことによってもたらされる恩恵を上記「全身と咀嚼」プルダウンメニューからご覧になれます。是非一度目を通していただき、実践してみてください。

噛む力


噛む力(噛むことのすすめ)

みなさんは食べ物をよく噛んで食べていますか?
1回の食事で何回くらい噛んでいると思いますか?

現代人は古代邪馬台国の女王卑弥呼に比べて、食事のとき1/6しか噛んでおらずあごの力が急速に退化しているという実験の報告があります。

※これは古代からの食事を復元して食べてみる実験を行った結果です。

 

 

 

 

例えば、卑弥呼の食事として復元されたのは、

●ハマグリ汁 
●鮎の塩焼き 
●長芋の煮物 
●カワハギの干物
●クルミ 
●栗 
●もち玄米のおこわ 
●ノビル

 

というメニューです。
これを食べてみたのは、20代の女性。
51分かかって4000回近く噛み続けたもののあごと口の中の感覚が麻痺し、1/5を食べ残して実験を中断してしまったそうです。

噛むことの効用 「ひ・み・こ・の・は・が・いー・ぜ」

 

「ひ」
肥満防止
よくかんでゆっくりと食べると、血糖値を徐々に上げ、少しの食事で
満腹感が得られるため、食べ過ぎを避けられます。
「み」
味覚が発達
唾液に含まれる酵素、アミラーゼはご飯などのデンプンを甘い麦芽糖に
分解し、消化を助けるだけでなく味覚を刺激します。
「こ」
言葉を正しく発音できる
よく咬まないと歯並びや筋肉の発達が悪くなるために、正しい発音ができ
なくなることがあります。
「の」
脳の発達
脳への血流が良くなるだけでなく、それに伴いボケ予防、精神安定、
ストレス解消効果もあると言われてます。 全身と咀嚼を参照
「は」
歯は病気の予防
よくかまないとあごの発達が悪くなり、審美上の問題となるばかりではなく、
食べカスが残りやすく、むし歯・歯肉炎・歯槽膿漏の一因にもなります。
「が」
がん予防
唾液に含まれる酵素に強い毒消し作用があるといいます。
咬むことで唾液の分泌が活発になり、その効果が高まります。
「い」
胃腸が快調になる
よく咬んで食べ物をかみ砕き、消化酵素を含む唾液と混ぜ合わせる
ことで、胃腸の消化機能を助けます。
「ぜ」
全力投球
しっかりとくいしばることが出来るので、何事にも全力投球ができます。

認知症克服


認知症(痴呆)は、いろいろな原因で脳の働きが悪くなったために物事を覚えたり判断したりする働きに障害が起こっている状態をいいます。脳の細胞が壊れ萎縮していくため、症状としては

・新しい情報を記憶できない
・時間や場所の感覚が不確かになる
・理解力や判断力が低下する
・計画を立てたり、物事を順序だてて実行できない

などが挙げられます。認知症を年のせいにせず、早期発見することによって治ったり、症状を大きく遅らせることが可能です。

■咬んで認知症を克服する

高齢期において咬むことは認知症の克服につながります。
その根拠として

1. 咬み合わせが悪くなると、新しい記憶形成を担っている海馬の神経活動が減衰し、学習・記憶が悪くなる。
2. 咬むことによって、海馬の神経活動が増強され、記憶力が向上する。
3. 咬むことによって、大脳の前頭前野の神経活動が増強される。
4. その結果、脳の人間たるゆえんの知・情・意の働きが向上する。

 

ということが様々な実験から分かってきました。
実際に咬み合わせの適正化(義歯調整)で認知症状が改善された例がある上、その裏づけとしてマウスによる実験で証明されてます。

■マウスによる認知症実験

この実験は早期老化性マウス(人間で65~70歳相当)で、上あごの歯を削ったものと自然のままのマウスを用意し、処置10日経過後から学習テストを開始しました。実験は「モリス水迷路学習」というポピュラーな実験方式でマウスの学習能力(記憶力)がどのように変化するかを調べます。

実験方法

●プールの周囲には指標となる机、棚、ラックなどを定位置に配置する。
●マウスは1日4回15分間隔で異なる位置からプールに入りプラットフォームを探す。
●90秒経ってもプラットフォームを探せないマウスはプラットフォームに誘導する。

 

◆ 実験1日目 ◆

遊泳パターンは大きく2つに分けられます。
◆画像をクリックすると実際の映像がご覧になれます。

咬み合わせの悪いマウス
(上あごの歯を削合したマウス)

健康なマウス

動画を表示 円を描くタイプ 咬み合わせの悪いマウス
動画を表示 無処置のタイプ

 

◆ 実験7日目 ◆

咬み合わせの悪いマウス
(上あごの歯を削合したマウス)

健康なマウス

動画を表示 円を描くタイプ 咬み合わせの悪いマウス
動画を表示 無処置のタイプ

 

●実験の解説●

実験開始1日目のマウスは咬み合わせの悪いマウスはプールの壁に沿うように円を描き同じところを泳ぎ続け90秒経過したため、手動でプラットフォームに誘導させました。
一方、健康なマウスは広域に渡り泳ぎ回った末、プラットフォームを自力で発見しました。
実験7日目になると健康なマウスはプラットフォームの位置を学習したため一直線にプラットフォームに向かいました。しかし、咬み合わせの悪いマウスは若干迷いながらプラットフォームに到着するという結果となりました。
これは咬み合わせの悪いマウスの学習能力が減退したことを示しています。

 

モリス水迷路学習能力が低下したのは咀嚼機能の減退が原因と考えられます。

実際に人間でガムチューイング(ガムを咬むこと)を行った場合と行わなかった場合、特に高齢者においては、咬むことにより大脳連合野が活性化され、次いで海馬の神経活動が活発になって記憶力が向上することが確認されました。
咬みあわせと咬むことは豊かで幸せな人生を送っていくことにおいて非常に重要なことであることがわかります。

メタボ克服


肥満症や高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病はそれぞれ違う病気というわけではなく実は同じ原因の病気ということが最近の研究で明らかになってきました。

 

その原因とは「肥満」であり、特に内臓に脂肪が蓄積した肥満(内臓脂肪型肥満)が原因であることがわかってきました。

この内臓脂肪型肥満によって他の病気が誘発されやすい状態を「メタボリックシンドローム」といいます。

内臓脂肪は皮下脂肪に比べ消費されやすく、作られやすい脂肪です。「消費されやすいのなら大丈夫」と安心するのは危険です。内臓脂肪は多ければ多いほど生命を維持するための内蔵機能を低下させます。

もちろん脂肪を燃焼させる新陳代謝も低下して脂肪がたまるという悪循環を生み出すというのも容易に想像できますよね。

メタボリックシンドロームを避けるには日々の食事の仕方で大きく左右されます。食事をする前に簡単な「あること」をすることで内臓脂肪を楽に減らしておなか周りをスッキリさせるコトができます。

 

■咬んでメタボリックシンドロームを克服する

実際に1日3回食前にキシリトールガムを咬む実験を行ってみたところ4週後から体重が減少し始め10週後には平均2%近い体重の減少が認められました。

1.咬むことによって、体重が減少する。
2.咬むことによって、皮下脂肪と内臓脂肪が減少する。
3.咬むことによって、満腹中枢が活性化され、摂食中枢のニューロン活動が減少される。
4.その結果、肥満抑制が可能になる。

 

咬むことでその刺激は脳に伝達され、神経伝達物質ヒスタミンが脳内で放出され、ヒスタミンは覚醒レベルや集中力、注意力の上昇などを担い、食欲の抑制にも働きます。よって咬めば咬むほどおのずと食べすぎを防ぐことができます。

食事もよく咬んで食べることでより効果的に肥満対策をすることができます。健康のために実践してみましょう。

ストレス克服


現代社会では科学の進歩により便利になりましたが、その反面、情報化社会やいじめなどで多大なストレスを強いられる社会となりました。

 

ストレスはたとえ小さくても慢性的になると自律神経のかく乱による循環器疾患や消化器疾患を発生させます。そんなテクノストレスに起因した「引きこもり症候群」や「狂乱暴動症候群」が増えつつあり、大きな社会問題に発展してます。

ストレス解消となると、スポーツや好きなことをしてそのストレスから逃れることもできますが、社会生活の中では慢性的にストレスを受けたりストレスを解消するための時間をなかなか取れない方も居られると思います。そんな慢性的に襲い掛かるストレスに対して、軽減する方法があります。

その方法とは「咀嚼」です。

 

■咬んでストレスを克服する

咬むことでストレスを緩和・克服できます。その根拠として、

1. 咬むことによって、ストレス反応のトリガーを担っている大脳辺縁系の扁桃核の神経活動が抑制される。
2. 咬むことによって、血液のストレス関連物質の上昇が抑えられる。
3. その結果、ストレス反応が緩和される。

これらの根拠となるデータをご覧ください。

 

■非常ベルによるストレス実験

非常ベルは鳴っているだけで不安を掻き立てられたり、不快感を受ける方がほとんどだと思います。それが何十分も鳴り止まないと考えるだけでもストレスです。

この実験は一定時間置きに非常ベルを鳴らし人体に聴覚的ストレスを与え、ストレスを受けたときに発生するストレス物質(アドレナリン・ノルアドレナリン・ACTH)を血中から検出し、その量を測定する実験です。ストレス物質の量が多く検出されればストレスを受けているということになります。
実験は非常ベルが鳴っている間に、咀嚼をする場合としない場合のストレス物質量を検証します。

 

●実験の解説●

非常ベルが鳴り、5分後から咀嚼を開始したところ、ストレス物質の減少がみられました。同様に扁桃核反応をイメージ画像から比較すると、咀嚼後の方にはストレスを示す黄色い領域が減少していることがわかります。咀嚼を止めるとまたストレス物質が増えていくのがわかります。

 

咀嚼をすることによりストレス物質の生産が抑えられストレスを軽減、緩和ができることが実験により証明されました。

よく咬むことによってストレスを抑え、精神的にも身体的にも健康な状態へ導けることがわかります。